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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)11591号 判決 1985年12月23日

原告 村田文雄 外二名

被告 日本電信電話公社訴訟承継人日本電信電話株式会社

訴訟代理人 幸良秋夫 外七名

主文

一  被告が原告村田文雄に対し昭和五三年一〇月一二日付けでした戒告の懲戒処分が無効であることを確認する。

二  被告は、原告村田文雄に対し、金一〇万四八四八円及び内金二四二四円に対する昭和五三年一二月二日から、内金一〇万円に対する昭和六〇年二月二日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告村田文雄のその余の請求並びに原告大沼康良及び原告板倉正良の各請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用中、原告村田文雄と被告との間に生じた分は被告の負担とし、原告大沼康良及び原告板倉正良と被告との間に生じた分は同原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告ら

1  被告が各原告に対し昭和五三年一〇月一二日付けでした戒告の懲戒処分は、いずれも無効であることを確認する。

2  被告は、

(一) 原告村田文雄に対し、金四八四八円及び内金二四二四円に対する昭和五三年一二月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を、

(二) 原告大沼康良に対し、金一万〇四四四円及び内金五二二二円に対する昭和五三年一二月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を、

(三) 原告板倉正良に対し、金一万二二三六円及び内金六一一八円に対する昭和五三年一二月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を、

それぞれ支払え。

3  被告は、各原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年二月二日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  第2項及び第3項につき仮執行の宣言

二  被告

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、公衆電気通信業務及びこれに附帯する業務等を行うため、日本電信電話公社法(以下「公社法」という。)に基づき設立された公法上の法人である。〔当裁判所の補注 日本電信電話株式会社法の施行により、本件口頭弁論終結後の昭和六〇年四月一日、特殊会社である日本電信電話株式会社が成立し、これに伴い日本電信電話公社が解散し、その一切の権利及び義務が日本電信電話株式会社に承継された。また、右新会社成立の際現に旧公社の職員であつた者は、新会社成立の時にその職員となるものとされ、その職員が右同日前に公社法三三条により受けた懲戒処分については、なお従前の例によるものとされた。本判決においては、被告を便宜「被告公社」と呼称する。〕

原告らは、いずれも被告公社の職員であり、原告村田は関東電気通信局東京無線通信部に属する東京統制無線中継所第二テレビジヨン部第一整備課に、原告大沼は同中継所第二テレビジヨン部電力課に、原告板倉は同通信局東京搬送通信部に属する大手町統制電話中継所試験課に、それぞれ勤務している。

2  原告らは、被告公社に対し、各原告が当該年度に有していた年次有給休暇(以下「年休」という。)の日数の範囲内で、原告村田は昭和五三年九月一六日につき、原告大沼及び原告板倉はいずれも同月一七日につき、それぞれ事前に年休の時季指定をした(以下、特に「年」を記さないものは、昭和五三年を指す。)。

3  原告らは右各時季指定に係る日に出勤しなかつたところ被告公社は、原告らがいずれも無断欠勤をしたとして、各原告に対し、一〇月一二日付けで、公社法三三条に基づき、それぞれ戒告の懲戒処分(以下「本件懲戒処分」という。)をした。また、被告公社は、原告らが本来受給すべき一〇月分の賃金から、右欠勤分として、原告村田については金二四二四円を、原告大沼については金五二二二円を、原告板倉については金六一一八円をそれぞれ控除した(以下「本件賃金カツト」という。)。

4  しかし、原告らは、いずれも、右各時季指定によつて適法に年休を取得したものであつて、無断欠勤をしたものではないから、被告公社がした本件懲戒処分及び本件賃金カツトは違法、無効であり、被告公社は右各控除金員を未払賃金として支払うべき義務がある。

5  原告らの各直属上司は、いずれも、原告らの各年休の時季指定に対し、時季変更権行使の要件がないにもかかわらず、原告らが九月一七日に三里塚で開催が予定されていた成田空港開港阻止百日闘争最終日の集会に参加するために年休を取得するものと考え、この集会に参加させないようにするとの意図の下に時季変更権を行使した。被告公社はこのような違法な時季変更権行使を前提に各原告に対して本件懲戒処分をしたものであつて、これは、故意又は過失による不法行為であるから、被告公社は、これにより原告らが被つた損害を賠償すべき義務がある。

原告らは、本件懲戒処分により精神的苦痛を受けた。また、原告らは、本件懲戒処分の無効確認等を求めるために本件訴訟の提起を余儀なくされ、これを弁護士に委任せざるを得なかつた。右精神的苦痛に対する慰謝料及び右不法行為と相当因果関係にある弁護士費用の合計額は、各原告につき金一〇〇万円とするのが相当である。

6  よつて、原告らは、被告に対し、(1)本件懲戒処分の無効確認、(2)右未払賃金とこれと同額の附加金との合計金として、原告村田は金四八四八円、原告大沼は金一万〇四四四円、原告板倉は金一万二二三六円と、うち未払賃金に対する支払期日後の昭和五三年一二月二日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払、(3)右不法行為による損害金として各金一〇〇万円と、これに対する不法行為後の日である昭和六〇年二月二日(訴えの追加的変更申立書の送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の事実は認める。

2  同4及び5の事実は否認する。

三  抗弁

1  被告公社は、以下2ないし4のとおり、原告らの各年休の時季指定に対し、事業の正常な運営を妨げる事情が存在したので、それぞれ時季変更権を行使した。ところが、原告らは、いずれも、右時季変更権の行使を無視し、適法に年休を取得したとして、その時季指定に係る日に無断欠勤をした。

原告らの右各欠勤は、被告公社の職員就業規則(以下「就業規則」という。)五条一項の「職員は、みだりに欠勤してはならない。」との規定に違反するものであるから、懲戒事由を定める同規則五九条一八号の「第五条の規定に違反したとき」に該当し、更に、就業規則は被告公社の定める業務上の規程であるから、同条一号の「公社法または公社の業務上の規程に違反したとき」にも該当する。

そこで、被告公社は、各原告に対し、公社法三三条に基づきその裁量権の範囲内で本件懲戒処分をし、また、本件賃金カツトをした。

2  原告村田関係

(一) 時季変更権の行使

原告村田は、九月一一日午前、その所属する東京統制無線中継所第二テレビジヨン部第一整備課の相波清課長に対し、同月一六日に年休を取得したい旨を申し出て年休の時季指定をした。これに対し、相波課長は、同日が二名という同課の業務遂行上最低の必要要員しか配置を予定していない土曜日であり、その年休を認めれば配置要員が一名となつて業務運営上少なからぬ支障があるため、年休の時季を別の日に変更するよう求めた。しかし、原告村田はこの要請に一切取り合おうとしなかつたので、相波課長は、同月一一日午後、一名の配置では業務に支障があるので別の日に年休を取得するよう告げて時季変更権を行使した。

(二) 原告村田の担務

(1) 東京統制無線中継所の所掌業務

ア 全国に所在するテレビ放送局から放送されるテレビ番組の大部分(約八〇パーセント)は、東京都内にある六放送局(NHK、NTV、TBS、フジ、朝日、テレビ東京)で制作されており、二一二の地方放送局は、そのほとんどの番組を在京六放送局から買い受けて放送している。右在京放送局の制作した番組を地方放送局に送り届ける役割を果たしているのが被告公社の所轄する「全国テレビ中継サービス・システム」であり、東京統制無線中継所は、同システムのセンターとして、「マスコツト」と呼ばれるコンピユータ・システムにより、在京放送局からの申込みを受けて、地方放送局へのテレビ中継回線の割当てや、放送時間に合わせての中継回線の接続切替え等の業務を行つて、全国テレビ中継網を一元的に運用統制し、もつて全国のテレビ放送の円滑な遂行を図るという重要な機能を果たしている。

そのほか、いわゆる衛星中継については、国際電信電話株式会社が茨城と山口に設置している衛星中継基地局で受信された番組がテレビ中継回線により東京統制無線中継所を経由して同社に送り込まれ、また、各放送局が現場へ中継車を派遣して制作した番組は、最寄りの被告公社中継所からテレビ中継回線により東京統制無線中継所を経由して番組制作局へ伝送される。

イ なお、東京統制無線中継所は、右テレビ放送関係業務のほか、東京に大地震等の災害が発生し既存設備による通信が途絶する場合に備えて、新宿三井ビル屋上に無人の無線中継所を設置し、それを中継点として、見通し距離内の電話局相互間に応急用の伝送路を作成する等の重要な役割も担つている。

(2) 東京統制無線中継所の機構及び勤務体制

ア 東京統制無線中継所は、所長、次長、第一テレビジヨン部(四課)、第二テレビジヨン部(五課)、技術管理課、労務厚生課及び庶務課によつて構成され、その職員数は約二〇〇名である。

イ 同中継所では、第一テレビジヨン部操作課、第二テレビジヨン部テレビジヨン課において二四時間の勤務体制を敷いている。これは、放送中はもとより、放送終了後の空き時間においても、放送局間の番組の送受信、施設の点検、整備等のためにテレビ中継網が稼働しているため、その運用保守を行う必要があること、及び非常災害が発生した場合に直ちに応急措置を行い、通信を確保する必要があることのためである。このほか、第二テレビジヨン部電力課でも二四時間勤務体制がとられており、その他の課においても、設備試験や夜間工事のため月に三、四回程度の夜間勤務が行われている。

(3) 第一整備課の所掌業務、構成人員及び勤務体制

ア 第二テレビジヨン部第一整備課は、東京統制無線中継所内及び在京六放送局に設置されている各種テレビ中継装置(映像端局装置、映像音声切替装置、映像音声監視制御装置など)の保守及び建設工事を分掌しており、これら中継装置に故障等の障害が発生した場合には、直ちにこれを修理し、その回復措置をとるという同中継所の中核的業務を行つている。

イ 第一整備課の職員は一三名であり、その構成は、課長一名、第一整備係長一名、同係員一名、第二整備係長一名、同係工事主任二名、同係員六名及び第二テレビジヨン部長直属の巡回保全長一名となつている。

ウ 第一整備課職員の一週間の勤務形態は、平日(月曜日から金曜日までをいう。以下同じ。)は午前八時三〇分から午後五時一〇分までの日勤勤務、土曜日は午前八時三〇分から一二時までの半日勤務を行い、日曜日、祝日は休日となつている。土曜日は、一般職員のうち二名ないし三名の者だけが勤務し、他の職員は休日となるが、管理者である課長と巡回保全長は隔週交代で一名ずつ勤務する。夜間勤務については、おおむね週に一回程度、係長以下の職員三名ないし四名が一組となつて、午後三時三五分から翌日の午前八時五五分まで宿直宿明勤務を行つている。

(4) 原告村田の担務

原告村田は、第一整備課第二整備係に属し、各種テレビ中継装置の定期点検、定期試験及び障害修理作業並びに保全工事及び建設工事作業を行つている。また、月に一ないし二回行われる宿直宿明勤務時には、在京六放送局のテレビ中継放送終了を待つて、放送中には実施することができない各種テレビ中継装置の定期点検、定期試験等の保守作業及び建設工事作業等を行つている。

(三) 事業の正常な運営を妨げる事情の存在

(1) 第一整備課の最低配置人員

ア 第一整備課の所掌業務の中心は、東京統制無線中継所内及び在京六放送局に設置されている各種テレビ中継装置の保守であるが、これら装置にいつたん障害が発生した場合には、その回復措置のため一名が障害現場(中継所内又は在京各放送局)へ急行して障害原因の探索、修理に当たるとともに、他の一名が中継所内のテレビジヨン回線調整室に設置されている監視制御装置に就いて右探索に協働しつつ修理状況を絶えず見守らなければならないから、障害の修理には最低二名の要員が必要である。そして、障害がいつ発生するかは予測のつきかねる事柄であるから、右のような第一整備課の業務内容、作業態様等にかんがみれば、右最低二名の要員配置を欠き、その欠務を補充しないまま業務を運営すること自体、その正常な運営を妨げるものというべきである。

イ 原告村田の年休の時季指定に係る九月一六日は土曜日であり、同日の勤務予定人員は、管理者である吉田彰男巡回保全長を除けば、原告村田及び大川忠治係長の二名のみであつた。したがつて、原告村田の年休を認めるときは、右に述べた必要最低限の二名の要員配置を欠くものであつた。

なお、九月一六日には、現実にも障害発生に備えなければならない事情があつた。すなわち、東京統制無線中継所では、テレビ中継回線の運用状況及び障害発生状況を監視し、必要事項を表示して障害の早期発見と回復措置の迅速化を図るため「テレビ回線運用監視装置」を導入することとし、四月からその架設工事を行つており、第一整備課は、その附帯工事として、九月七・八日、一四・一五日の各両日にかかる夜間帯に、同装置のテレビ音声関係機器の一部に改良を加えるための配線工事を行つた。一般に、現用回線に配線工事を施せば工事に起因する何らかの障害が発生するおそれがある。したがつて、右配線工事が行われる九月一五日の翌日である一六日は、工事実施に伴う障害の発生に備えるべき具体的必要性が存在した。

(2) 欠務の補充

ア このような最低配置人員を欠く欠務がやむを得ず生じた場合、第一整備課においては、従来、その欠務補充の方法として、勤務割変更によつて他の職員に代替要員を求めるという方法をとらず、当日出勤した管理者である課長又は巡回保全長によつてこれを補充し、例外なく二名の要員を確保してきた。

しかし、昭和五三年当時は、成田空港の開港に反対する過激派と称される集団が各地で破壊活動を繰り返しており、被告公社の空港関連通信設備等もその破壊活動の対象とされ、殊に九月ころに至るとこれらの違法行為はますますその激しさを増して、各地で被告公社設備等に対する無差別的破壊行為が相次いで発生した。そこで、東京無線通信部においても、右事態に対処するため、不測の事態が発生した場合における同管内の管理者による駆け付け応援体制を含む諸対策を策定し、更に、いわゆる百日闘争の終期を真近に控え、過激派の破壊活動が一段と強まるものと予想された九月一二日から一七日までの間は、特に防備対策を強化するため、管下の全中継所に対し特別保守体制をとるよう指示するとともに、同通信部内に対策本部を設置した。このような事情の下に、吉田巡回保全長は同通信部の駆け付け応援体制に組み込まれ、成田無線中継所にいつたん事が発生した場合には、発生時刻のいかんにかかわらず、同中継所に駆け付けて同中継所長の指揮下に入るよう特命を受けていた。そして、九月一六日前後は違法行為の発生する蓋然性が極めて高いと予想され、警備当局が厳戒体制をとつていた時期であつた。したがつて、九月一六日については、当日勤務予定の吉田巡回保全長による欠務補充は不可能な状況にあり、一般職員二名の配置を確保することが是非とも必要であつた。

イ また、年休請求者の欠務を補充するために週休者の勤務割を変更することは、第一整備課において過去に一度も行われたことがなく、従前の慣例に反するものである。これに加えて、週休日の振替えには、それ自体が業務上やむを得ない理由がある場合に限定されるという制約や週休日を変更される側の職員に対する配慮等の服務指定上困難な問題がある。更に、昭和五三年当時は、三月二六日の成田空港開港阻止闘争での逮捕者の中に被告公社職員五名が含まれていたことに伴い、被告公社は社会から厳しい批判を受け、服務管理を厳正に行うべきことを要請されていたため、いつたん決めた勤務割の安易な変更は許されない状況にあつた。したがつて、原告村田の年休による欠務のために週休者に代替勤務を命じることは、事実上もできないことであつた。

3  原告大沼関係

(一) 時季変更権の行使

八月三〇日、原告大沼の所属する東京統制無線中継所第二テレビジヨン部電力課の稲葉次夫課長は、同課の渡辺益美工事係長から、原告大沼が同月二九日に九月二日と一七日の両日について年休の時季指定をした旨の報告を受けた稲葉課長は、九月二日の年休については要員の差し繰りも可能であつたので認めることとし、九月一七日の年休については、まだ二週間以上も間があり、代替要員の見通し、業務上の支障の有無について判断がつきかねる状況であつたため、とりあえず保留することとした。

原告大沼は、九月七日、稲葉課長に対し、同月一七日に年休を取得したい旨を申し出て、再度年休の時季指定をした。これに対し、稲葉課長は、同日が二名という同課の業務遂行上最低の必要要員しか配置を予定していない日曜日であり、その年休を認めれば、配置要員が一名となつて業務遂行上支障があると判断し、また、勤務割を変更して代替要員を確保することができないことも予想されたので、年休の時季を別の日にするよう変更を求めた。そして、稲葉課長は、同月八日、代替要員の確保ができないことが判明したので、原告大沼に対し、現状では勤務割の変更ができないので原告大沼の計画を変更するよう告げて、時季変更権を行使した。

(二) 原告大沼の担務

(1) 電力課の所掌業務、構成人員及び勤務体制

ア 東京統制無線中継所が全国で唯一のテレビ回線統制局として「全国テレビ中継サービス・システム」を一元的に運用統制し、全国のテレビ放送の円滑な遂行を図るという重要な役割を果たしていることは、前記のとおりである。

第二テレビジヨン部電力課は、同中継所内の「全国テレビ中継サービス・システム」を中心としたすべての電気通信施設に電力を供給するとともに、同中継所内の冷暖房を含む空気調整設備の運転と保守を行つており、関係設備の障害発生時には速やかに修理、回復措置を講じまた、障害の発生を未然に防止するために定期的に試験点検業務を遂行している。

イ 電力課の職員は一六名であり、その構成は、課長一名電力係長一名、同係員一名、工事係長一名、工事主任二名、一般の課員一〇名となつている。

課長を除いた職員の勤務形態は、一般の課員一〇名が二名を一組として日勤勤務、宿直宿明勤務を組み合わせた勤務形態を五日単位で繰り返す五輪番服務による二四時間の勤務体制をとつており、他の職員は、平日は午前八時三〇分から午後五時一〇分までの日勤勤務、土曜日は午前八時三〇分から一二時までの半日勤務を行い、日曜日、祝日は休日となつている。

ウ この結果、土曜日の午後、日曜日及び夜間、早朝時は五輪番服務者二名のみの最低配置人員となるため、六〇〇〇ボルトという高圧を扱う電力業務の危険性及び障害その他トラブル発生の際の迅速、的確な対処をとるべき必要性を考え、この二名の組合せについては経験年数の長い者(各班のチーフと呼ばれる。)と短い者を組み合わせることとし、チーフとなる者の基準として、電力業務につき少なくとも二年以上の経験を要することとしている。

(2) 原告大沼の担務

原告大沼は、五輪番服務者の一人であり、電力供給関係設備、空気調整設備等の運転制御及び運転状況の監視、これら設備の点検、試験、障害修理等の保守作業並びに保全工事、建設工事等の作業を行つている。

(三) 事業の正常な運営を妨げる事情の存在

(1) 電力課の最低配置人員

ア 電力課の所掌する業務は電力供給関係設備及び空気調整設備の正常運転であるが、電力供給関係設備が正常運転状態にあるかどうかは、運転監視装置として電力課の調整室(制御室ともいう。)に集中された諸計器類によつて指し示され、特に電力供給に支障を与える異常が生じたときは、警報装置が鳴動して直ちに告知する仕組みになつている。したがつて、まず一名は調整室にあつて電力供給関係設備の作動状態を絶えず監視する必要がある。そして、それに異常が生じたときは、即刻、他の一名がその除去に向かつて諸措置を講じなければならないし、このほか、中継所内各所に分散設置されている電力供給関係設備及び空気調整関係設備の各設置場所に足を運んで行う毎日点検作業や、特定の機器について行う毎週点検作業もあつて、これには調整室の監視要員以外の者を充てなければならないから、電力課の所掌業務の遂行には最低二名の要員を確保することが絶対に必要である。また、二名の要員を配置することは、六〇〇〇ボルトという高圧を含む電力を扱う同課の業務上、生命の安全の面からも必要なことであつた。したがつて、右最低二名の要員を欠き、その欠務を補充しないまま業務を運営すること自体、その正常な運営を妨げるものというべきである。

イ 原告大沼の年休時季指定に係る九月一七日は日曜日であり、電力課の同日の日勤勤務予定者は、原告大沼と菊池孝課員の二名のみであつた、これは右に述べた必要最低配置人員であり、しかも、菊池は入社後わずか一年余の職員で電力業務を単独で取り仕切るには経験が浅かつたため、入社後七年余を経過して電力業務に通暁している原告大沼を欠くときは、電力課の業務遂行上重大な支障があつた。

(2) 欠務の補充

五輪番服務体制がとられている電力課においては、従来、やむを得ない事情等により最低二名の配置を欠くに至るときは、他の職員の勤務割を変更して代替勤務者を確保する方法により欠務を補充してきた。したがつて、原告大沼の年休を認めるときは、そのようにして代替勤務者を確保する必要があつた。

そこで、稲葉課長は、原告が渡辺係長に年休を申し出た後の八月末ころから、代替勤務が可能な他の職員に対し、逐一、九月一七日の勤務割の変更の可否について意向を打診したが、いずれもその応諾を得られず、代替勤務者を確保することができなかつた。

4  原告板倉関係

(一) 時季変更権の行使

原告板倉は、九月二日、その所属する大手町統制電話中継所試験課の雉岡恵太郎課長に対し、同月一七日に年休を取得したい旨を申し出て、年休の時季指定をした。これに対し、雉岡課長は、同日が一名という同課の業務遂行上最低の必要要員しか配置を予定していない日曜日であつてその配置を欠くことは許されないが、原告板倉に代わつて勤務する者がいれば年休を付与しても支障がないので探してみようと考え、代替要員が得られるまで返事を保留するという趣旨で「わかつた」と答えた。

雉岡課長は、その後同月一〇日までの間、勤務体制からみて代替勤務が可能と思われる課員全員に勤務割変更についての協力を求めたが、代替勤務者を得ることができなかつた。そこで、雉岡課長は、同月一一日、原告板倉に対し、課員全員に当たつたが都合のつく者がいないので年休を他の日に変えるよう告げて、時季変更権を行使した。

(二) 原告板倉の担務

(1) 大手町統制電話中継所の所掌業務

ア いわゆる市外通話は、市外自動交換機と市外回線とで構成されている市外交換網に乗つて疎通されているが、その基幹部分は、マイクロ波、同軸ケーブル等の多重伝送路でできており、統制電話中継所は、そのうち有線方式の部分を主として保守する機関である。統制電話中継所は、管轄範囲に応じて上位から順に、北海道、関東など地方を管轄する総括局、県を管轄する中心局、地方中心都市市域を管轄する集中局という局階位があり、大手町統制電話中継所は、東京統制電話中継所と並んで、関東地方を管轄する総括局である。

イ 大手町統制電話中継所は、四月一日現在、全国の中継所の中にあつて最も多い七万回線の市外回線を収容しており、これらの中には、一般に公衆線と呼ばれる市外電話回線のほかに、警察、放送、新聞、運輸省航空局等が利用している専用線、データ通信などに使用する符号線、フアクシミリなどに利用する広帯域線、電報の通信に利用する搬送電信路、全国の天気予報や時報に使用する部内線等が含まれている。ちなみに、東京都区内と全国各地相互間の市外通話は、一日約一三〇〇万回あり、その相当部分が同中継所の設備ないし機能を介して行われている。

また、同中継所は、データ通信をより高質でより安価に利用できるよう開発されたデジタル・データ網の全国唯一のマスター局として、その保守にも当たつている。

(2) 大手町統制電話中継所の機構及び勤務体制

大手町統制電話中継所は、所長、次長、試験課、整備課及び庶務課によつて構成され、その職員数は五三名である。このうち、試験課及び整備課は、輪番服務の方式により、二四時間勤務体制をとつている。

(3) 試験課の所掌業務、構成人員及び勤務体制

ア 試験課は、大手町統制電話中継所に収容している市外回線及び下位局の装置の状態を絶えず監視し、必要に応じて定期試験を行い、障害が生じた場合には、関係する電話中継所と連絡を取りながら原因探索に当たり、障害発生局所が同中継所の管轄内であることが判明したときは応急の復旧措置を講じた後整備課へ、他の局所であるときは当該中継所等へそれぞれ修理を手配し、必要な指示、連絡を行い、完全修理に至るまでの修理状況を確認試験するなど、同中継所の所管する通信設備全体の保全統制業務という重大な事項を所掌している。

更に、試験課は、異常障害、非常災害の発生に備え、その事態に適切に対処し得るように、異常障害措置計画表などの必要な資料の作成及び整備を行つている。

イ 試験課の職員は二一名であり、その構成は、課長一名、第一統制係長一名、同係員一名、第二統制係長一名、同係員一名、試験係長一名、同係員一名、工事係長一名、同係工事主任三名、同係員一〇名となつている。

ウ 課長を除いた職員の勤務形態は、第一、第二統制係及び試験係の六名は、平日は午前八時三〇分から午後五時一〇分まで、土曜日は午前八時三〇分から一二時までの日勤勤務のみを行う固定日勤、工事係長、工事主任三名及び工事係員のうち四名は、一週のうち五日間は午前八時三〇分から午後五時一〇分まで、残りの一日が三時間半の勤務を行う準固定日勤、そして、残りの工事係員六名は、日勤勤務、宿直宿明勤務を六日単位で繰り返して行う六輪番服務となつている。なお、一〇名の工事係員の各々は、一二週は六輪番服務、八週は準固定日勤勤務に従事し、二〇週を単位として循環する仕組みになつている。

(4) 原告板倉の担務

原告板倉は、工事係に属し、六輪番服務を行う一般の係員として、市外回線の試験、監視、障害修理等の現場作業を行つている。

(三) 事業の正常な運営を妨げる事情の存在

(1) 試験課の最低配置人員

ア 大手町統制電話中継所においては、収容設置されている市外回線にいつたん障害が発生すれば、その影響が極めて甚大であることにかんがみ、従前から、日曜日、祝日、また深夜にあつても、試験課及び整備課の職員各一名の計二名を配置することにより、例外なく必要最低人員を確保していた。すなわち、通信施設に障害があつた場合には、その早急な回復のため、一名は直ちに障害原因の探索及び修理に当たるとともに、他の一名は試験台に就いて右探索に協働し、他の関係局所との連絡に当たりつつ修理状況を絶えず見守り、一体となつてその早期完全回復を図る必要があり、そのため、二名の要員配置は必要不可欠となる。

イ 原告板倉の年休時季指定に係る九月一七日は日曜日であり、試験課の同日の日勤勤務予定人員は原告板倉のみの一名であつて、これは同課の業務遂行上欠かすことのできない要員であることはいうまでもない。したがつて、原告板倉の年休を認めるときは、試験課の最低一名の要員を欠き、試験課ひいては大手町統制電話中継所の業務運営に重大な支障を来すおそれがあつた。

ウ しかも、当時は、前記のように成田空港開港に反対する過激派により被告公社の空港関係施設等が破壊されるという事態が頻発していたため、不測の事態の発生を憂慮した東京搬送通信部長の指示に基づき、航空回線等の通信設備を有する大手町統制電話中継所においても、特別保安体制を敷き、情報連絡体制及び保全サービス体制を強化して不測の事態に備えていた時期であつた。特に九月十七日はいわゆる百日闘争の最終日として、過激派集団による破壊活動が極限に達するものと予想されていた日であり、通常とは異なる異常障害の発生する蓋然性が極めて高く、試験課の要員を無配置とすることはできなかつた。

(2) 欠務の補充

ア このように、原告板倉の年休を認めるためには、他に代替勤務者を確保する必要があつた。そこで、雉岡課長は、九月二日から一〇日にかけて、デスク業務に従事する固定日勤服務者で輪番服務者の代替勤務をしたことがない職員を含め、原告板倉の代わりに日勤勤務が可能と思われる課員全員に逐一当たつて代替勤務の意向を打診したが、応諾した者がいなかつたため、結局、代替勤務者が得られなかつた。

イ なお、試験課にあつては、管理者たる課長が年休請求者のためその代替者になるということはなく、それを措くとしても、雉岡課長は、特別保守体制の下に、九月一六日夜から中継所内に泊まり情報連絡に当たることなどを命じられていたのであつて、自らが原告板倉の代替勤務を行うことはできなかつた。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1のうち、被告公社が原告らの各年休の時季指定に対し時季変更権を行使したこと、原告らが時季指定に係る日に出勤しなかつたこと、就業規則に被告主張の各規定が存在することは認めるが、その余は争う。

被告公社が時季変更権を行使した真の意図は、事業の正常な運営を妨げる事由が存在したからではなく、前記のとおり、原告らを成田空港の開港に反対する集会に参加させないようにするという点にあつたものである。

2  抗弁2(原告村田関係)について

(一) 抗弁2(一)のうち、原告村田が九月一一日午前に相波課長に対し同月一六日について年休の時季指定をしたこと、これに対し相波課長が四月一一日午後に時季変更権を行使したことは認めるが、その余は否認し、又は争う。

(二) 同(二)の(3)アのうち、第一整備課が各種テレビ中継装置の保守及び建設工事を分掌していることは認める。同イ及びウの事実は認める。

同(二)の(4)の事実は認める。

(三) 同(三)の(1)アは争う。最低配置人員を欠くことから直ちに時季変更権の要件が発生するものではない。第一整備課においては、その保守している機械類がトランジスタ化等により極めて安定性のあるものになつたため、従前は二四時間勤務体制であつたものが昭和四八年二月から常日勤体制となり、夜間はもちろん、土曜日の午後、日曜日、祝日には配置人員が皆無となつている。そして、第一整備課の職員が服務していないときに障害が発生した場合には、第二テレビジヨン部テレビジヨン課がこれに対する応急措置を行うこととされている。また、第一整備課が保守するほとんどの設備には予備装置が備えられており、障害時には自動的に予備装置に切り替わつて運用されるため、直ちに故障箇所を修理すべき事態に陥ることは極めて少ない。したがつて、定期試験など特別の業務がない土曜日の午前中において、一般の職員が一名となつても特に支障がないと考えられており、現実に一名のみの勤務状態が日常的にある。なお、調整室に設置されている監視制御装置を監視するのは、テレビジヨン課の職員である。

同イのうち、九月一六日は当初吉田巡回保全長のほか原告村田及び大川係長の二名が勤務予定であつたこと、第一整備課が被告主張の期日にテレビ音声関係機器の一部に改良を加えるための配線工事を行つたことは認めるが、その余は争う。九月一六日には、何ら特別の業務は予定されていなかつた。また、テレビ音声関係機器の改良工事の後には必ず確認試験を行うこととされており、工事が原因で障害が発生する蓋然性は極めて乏しいし、仮に障害が発生したとしても、その対処は二四時間勤務体制を敷いているテレビジヨン課において行うことができる(もし、右工事に伴つて障害が発生することが予測されたならば、むしろ工事直後の九月一五日にも人員が配置されなくてはならないのに、同日は祝日のため、第一整備課には日勤者は一人も配置されていない。)。したがつて、九月一六日に原告村田の配置を欠くに至つたとしても、障害に対する措置は十分に行い得る体制にあつた。

同(三)の(2)アのうち、九月一六日当時東京統制無線中継所が特別保守体制下にあつたこと及びその具体的内容、吉田巡回保全長が被告主張の特命を受けていたことは不知、その余は争う。

同イは争う。仮に九月一六日に一般職員二名の配置を確保する必要があつたとしても、被告公社は、勤務割を変更し他の職員に同日の服務を命じて原告村田の年休時季指定に対処し得たはずであり、こうした代替者の配置が困難であつたという事情は存在しない。それにもかかわらず、相波課長は、このような措置を採るための努力すら全くしていない。

3  抗弁3(原告大沼関係)について

(一) 抗弁3(一)のうち、原告大沼が八月二九日に渡辺工事係長に対し九月二日と一七日の両日について年休の時季指定をし、八月三〇日に稲葉課長が同係長からその旨の報告を受けたこと、九月二日が年休として取り扱われたこと、原告大沼が九月七日に稲葉課長に対し同月一七日について再度年休の時季指定をしたこと、これに対し稲葉課長が代替可能者の不存在を理由に時季変更権を行使したことは認めるが、その余は否認し、又は争う。稲葉課長が時季変更権を行使したのは、九月七日である。

(二) 同(二)の(1)アのうち、電力課が東京統制無線中継所内の電気通信施設に電力を供給するとともに、同中継所内の冷暖房を含む空気調整設備の運転と保守とを分掌していることは認める。同イの事実は認める。

同ウの事実は否認する。現に、チーフでない者二名のみが宿直宿明勤務等を行うことがある。電力課の業務は、経験年数が一年六月を経ていれば何ら支障なく遂行することができる。

同(二)の(2)の事実は認める。

(三) 同(三)の(1)アは争う。同イのうち、九月一七日の日勤勤務予定者が原告大沼及び菊池の二名であつたことは認めるが、その余は争う。九月一七日につき事前に緊急性のある業務が予測されたことはなく、原告大沼が非代替的に勤務しなければならない事情も全くなかつた。仮にケーブル切断などの人為的事故が起こつたとしたなら、通常の勤務体制では対処し得ず、原告大沼一人の勤務を欠いたからといつて、全体的にみれば、全く業務体制に影響が生じないものといわなくてはならない。

同(三)の(2)のうち、稲葉課長が九月一七日につき代替勤務が可能と思われる職員にその旨打診したことは否認し、その余は争う。仮に九月一七日に職員二名を確保する必要があつたとしても、原告大沼以外の他の職員に勤務割の変更を命じて十分対処し得たはずであるのに、稲葉課長は、このような措置を採るための努力を全くしなかつたばかりか、かえつて、代替勤務が可能な者に対し、原告大沼から依頼されても代替勤務に応じないよう命じて、原告大沼に年休を取得させないよう積極的に働き掛けた。

4  抗弁4(原告板倉関係)について

(一) 抗弁4(一)のうち、原告板倉が九月二日に雉岡課長に対し同月一七日について年休の時季指定をしたこと、これに対して雉岡課長が「わかつた」と答えたこと、雉岡課長が同月一一日に時季変更権を行使したことは認めるが、雉岡課長が「わかつた」と答えるにつきどのように考えたかは不知。雉岡課長が代替勤務が可能と思われる課員全員に勤務割変更の協力方を求めたことは否認する。

(二) 同(二)の(3)イの事実は認める。

同ウは争う。課長を除いた職員は、すべて宿直宿明勤務、日曜勤務を行うことがある。なお、六輪番服務を行う職員が存在することは認める。

同(二)の(4)の事実は認める。

(三) 同(三)の(1)アのうち、試験課及び整備課において合計二名の要員を例外なく確保していたことは否認し、その余は争う。大手町統制電話中継所を含む関東電気通信局管内においては、いわゆるブロツク保全体制がとられており、通信設備に障害が発生した場合、試験課等に要員が不足しているときには、東京統制電話中継所において二四時間勤務体制で服務している保全主幹が右障害の修理作業に従事することになつている。

同イのうち、九月一七日の試験課の勤務予定者が原告板倉一名であつたことは認めるが、その余は争う。同日には、原告板倉を配置しなければ事業を遂行し得ないような緊急かつ非代替的な業務があることは予想されていなかつた。

同ウのうち、九月一七日当時大手町統制電話中継所が特別保守体制下にあつたこと及びその具体的内容は不知、その余は争う。仮に当日ケーブル切断事故などがあつた場合には、原告板倉のみの配置では足りようもなく、ブロツク保全体制やその他の方策により対応しなければならなかつた。

同(三)の(2)アの事実は否認する。業務上支障と要員不足とは本来別個の概念なのであり、要員不足による代替要員確保の困難性は時季変更権行使の要件には到底なり得ず、要員確保の義務と責任は被告公社の側にある。ところが、雉岡課長は、これに積極的に対処しないで、原告板倉の代替要員を配置しなかつた。

同イの事実は不知ないし争う。過去において、雉岡課長以外の管理者が代替勤務を行つたことがあるし、また、雉岡課長が代替勤務を行つた事例が全くないことをもつてしては、いかなる意味においても、時季変更権行使の理由にはなり得ない。

五  再抗弁(原告板倉)

1  従来、試験課においては、原告板倉のみならず他の職員についても、年休の時季指定に対して時季変更権が行使されることは皆無であり、職員が雉岡課長に対して年休の時季指定を行い、その確認を得れば、それで年休を取得できるという慣行が成立していた。そして、仮に右時季指定の日につき代替要員を確保する必要があつた場合には、雉岡課長の権限と義務に基づいて要員を確保してきた。原告板倉が九月二日に年休の時季指定をしたときも、事情は従来と全く異なるところはなく、雉岡課長は何らの留保もなく「わかつた」と答えているのであり、事業の正常な運営を妨げる事由があるなどということは考えておらず、従来からの通常の方法でこれを処理しようとしていたものである。したがつて、右時点で、原告板倉の年休は適法に成立した。

2  年休の時季指定に対する時季変更権の行使は、その要件の存在が認められれば、右指定があつた後速やかに行われなければならない。本件においては、原告板倉の九月二日における時季指定に対して、同月一一日になつてようやく時季変更権が行使された形になつている。このような時季変更権の行使は、変更権を行使し得る期間を著しく逸脱したものであり、無効というべきである。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1の事実は否認する。試験課においては、従来から職員の同意を取り付けた上で代替勤務を命じてきたものであり、代替要員を確保できない場合もあり得るから、原告板倉主張のような慣行は存在するはずもなく、その主張は結果論にすぎない。

2  同2は争う。時季変更権の行使は、変更を要する事態の発生が予測されてから合理的な期間内に行えば足りる。本件の場合、雉岡課長は、九月二日に時季指定を受けて後、直ちに代替勤務者の確保に努力したが、同月一〇日に至つて初めて代替勤務者が得られないことが判明し、翌一一日に時季変更権を行使したものであり、また、時季指定日である同月一七日に対しても十分な期間的余裕があつたのであるから、右時季変更権の行使が不当に遅延したものということはできない。

第三証拠関係<省略>

理由

第一争いのない事実及び争点

一  被告が公衆電気通信業務及びこれに附帯する業務等を行うため公社法に基づき設立された公法上の法人であること(ただし、昭和六〇年四月一日から特殊会社に改組されていることは、前記当裁判所の補注のとおりである。)、原告らがいずれも被告公社の職員であつて、原告村田は東京統制無線中継所第二テレビジヨン部第一整備課に、原告大沼は同中継所同部電力課に、原告板倉は大手町統制電話中継所試験課にそれぞれ勤務していること、原告らが被告公社に対し、各原告が当該年度に有していた年休の日数の範囲内で、原告村田は九月一六日につき、原告大沼及び原告板倉は同月一七日につきそれぞれ事前に年休の時季指定をしたこと、これに対し被告公社がそれぞれ時季変更権を行使したこと、しかし原告らがいずれもその時季指定に係る日に出勤しなかつたこと、そこで被告公社が各原告に対し無断欠勤を理由に本件懲戒処分をし、また、本件賃金カツトをしたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

二  被告は、右各時季変更権の行使は事業の正常な運営を妨げる事情が存在したために行われた適法なものであり、原告らの欠勤は無断欠勤に当たると主張するのに対し、原告らは、右各時季変更権の行使はその要件を欠くなど違法なものであつて、原告らは適法に年休を取得したものであり、また、被告公社がそのような違法な時季変更権の行使を前提に本件懲戒処分をしたことは不法行為にも該当すると主張する。

したがつて、本件における争点は、被告公社がした各時季変更権の行使が適法かどうかに帰着する。そこで、以下、各原告について順次これを検討する。

第二原告村田関係

一  年休の時季指定と時季変更権の行使

抗弁2(一)のうち、原告村田が九月一一日午前に相波課長に対し同月一六日について年休の時季指定をしたこと、これに対し相波課長が同月一一日午後に時季変更権を行使したことは当事者間に争いがなく、これらの事実に、成立に争いがない乙第一六号証、証人相波清の証言及び原告村田本人尋問の結果を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

原告村田は、九月一一日午前一一時四五分ころ、第一整備課の相波課長の席へ行き、口頭で、同月一六日に年休を取得したい旨を申し出て年休の時季指定をした。これに対し、相波課長は、その時季指定に係る日は土曜日で、一般職員は原告村田と他の一名の計二名の職員の配置しか予定されていなかつたため、原告村田に対し、同原告が当日に年休を取得すると配置が一名となつて業務に支障がある旨を告げ、年休を別の日にするよう時季の変更を求めた。しかし、原告村田は、従前にも土曜日の一名勤務の例があつたことを挙げて同様の取扱いを求め、時季の変更に応じようとしなかつたので、相波課長は、勤務割の変更により原告村田の代替勤務者を確保することを考慮することなく、同月一一日午後一時一五分ころ、業務上の支障があるので別の日に年休を取得するよう告げて時季変更権を行使し、その際、一名の配置では突発的な障害が発生したときなどに対処できなくなることが業務上の支障である旨を説明した。

二  原告村田の担務

抗弁2(二)の(3)アのうち第一整備課が各種テレビ中継装置の保守及び建設工事を分掌していること、同イ及びウの事実並びに同(二)の(4)の事実は当事者間に争いがなく、これらの事実に、前掲乙第一六号証、成立に争いがない乙第二号証、第三号証の一、二、第一三号証及び第四二号証、証人野口理彦及び相波清の各証言並びに原告村田本人尋問の結果を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

1  東京統制無線中継所は、抗弁2(二)の(1)、(2)記載のとおり、在京六放送局が制作した番組をテレビ中継回線の割当て、接続、切替え等により全国の各地方放送局へ送り届け、全国テレビ中継網を一元的に運用統制するなどの業務を所掌しており、その内部機構は所長の下に二部一二課から成り、その職員数は約二〇〇名である。

2  第二テレビジヨン部第一整備課は、東京統制無線中継所内及び在京六放送局に設置されている各種テレビ中継装置について、点検、試験、修理等の保守業務を行い、また、その増設等の建設工事を分掌している。

3  第一整備課の職員は、課長一名、第一整備係長一名、同係員一名、第二整備係長一名、同係工事主任二名、同係員六名及び第二テレビジヨン部長直属の巡回保全長一名の計一三名である。

その勤務形態は、平日は午前八時三〇分から午後五時一〇分までの日勤勤務を行い、土曜日は係長以下の一般職員のうち二名ないし三名が午前八時三〇分から一二時までの半日勤務を行うとともに、管理者である課長と巡回保全長が隔週交代で半日勤務を行つている。したがつて、日曜日及び祝日は休日であり、土曜日も右の半日勤務を行う日以外は週休日となる。また、おおむね週に一回程度、一般職員のうち三名ないし四名が一組となつて、午後三時三五分から翌日の午前八時五五分までの宿直宿明勤務(夜間勤務)を行い、テレビ中継放送中には実施することができない作業を行つている。個々の職員についての具体的な勤務割は、一か月ごとに作成される勤務割表によつて定められる。

4  原告村田は、第一整備課の第二整備係員として、右の勤務形態に従い、各種テレビ中継装置の定期点検、定期試験及び障害修理作業並びにその保全工事及び建設工事作業に従事している。

三  第一整備課の最低配置人員

前掲乙第二号証、原本の存在と成立に争いがない甲第七ないし第一三号証、成立に争いがない乙第一一号証の一、二、証人相波清の証言により成立が認められる乙第一七号証及び第一九号証並びに証人野口理彦、相波清、吉田彰男及び福井謙三の各証言によれば、次の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

1  第一整備課が分掌する業務のうちには、各種テレビ中継装置の修理業務がある。これらの中継装置の主要なものは九月当時、映像端局装置、ビデオ信号切替装置、回線切替装置、音声信号切替装置など一一種あつたが、そのうち映像端局装置は東京統制無線中継所内及び在京各放送局に設置され、その余の装置は同中継所内に設置されている。

2  これらの中継装置に障害が発生した場合には、まず予備装置がある装置(四種)については自動又は手動によリ予備装置に切り替え、予備装置がない装置(七種)については第二テレビジヨン部テレビジヨン課において空き回線に接続するなどの応急措置をして中継の乱れや途絶を防止した上で、第一整備課の職員が障害現場に急行して障害を起こした装置の点検、修理を行い、修理が完了したら再び現用装置に戻すなどの復旧措置をしてテレビ中継放送を続けることとなる。ただし、予備装置がない装置については、運用中に修理を行うことがかえつて不都合なこともあるので、その場合は、応急措置を施したままでテレビ中継放送の終了を待ち、その後(夜間)に修理作業を行う。また、第一整備課においては、日曜日、祝日や土曜日の午後、あるいは夜間(夜間勤務が行われる日を除く。)には人員の配置がないので、その間に障害が発生した場合には、テレビジヨン課において簡易な修理作業を含む応急措置を行い、後に第一整備課において本復旧のための修理作業を行う。もつとも、それが大きな障害であるときは、第一整備課の管理者が直ちに駆け付けて修理に当たることとなつている。

3  第一整備課における右の修理業務は、少なくとも一名が障害現場である東京統制無線中継所内又は在京各放送局の設置場所に赴いて直接に障害原因の探索や修理作業に当たるとともに、他の一名が同中継所内のテレビジヨン回線調整室に設置されている監視制御装置に就き、障害現場に赴いた職員と協働して障害原因を探索し、現場の修理状況を監視するという方法により行われる。もつとも、実際には障害現場には二名以上の職員が赴いて修理作業に当たることが多く、また、一般職員が二名しか配置されていない場合には、その二名が共に障害現場に赴き、監視制御装置に就いて行う業務は同所に常勤しているテレビジヨン課の職員にゆだねるということもあり得る。

4  第一整備課では、従前は二四時間勤務体制をとつて障害発生等に備えていたが、機器のトランジスタ化等による改善整備が進み、その性能が安定したものとなつて、夜間における障害件数が減少し、定期試験の周期も延長されたことに伴い、昭和四八年二月からは原則として宿直宿明勤務を廃止し、前記二のような勤務体制をとるようになつた。しかし、それでもなお、第一整備課が所管するテレビ中継装置についての障害発生状況は、昭和五二年度において、現実にテレビ放送に影響を与えた運転障害が合計五二件、そのまま放置すればテレビ放送に影響を与えるおそれがある予備障害が合計一〇五件あり、そのうち、在京六放送局に設置されている装置に発生したものは、運転障害が一四件、予備障害が三四件であつた。

5  第一整備課においては、土曜日は一般職員のうち二名ないし三名と管理者一名とが午前八時三〇分から一二時までの半日勤務を行うのが常態であつたが、昭和五二年九月から昭和五三年八月までの一年間に、土曜日に一般職員の実勤務者が一名となつたことが五回あつた。しかし、これらの場合は、勤務予定者のうち一名ないし二名がやむを得ない事情を明らかにして突発的に年休を取得したり、あるいは出張等の業務上の都合により予定の勤務をすることができなくなつたために生じた例外的なものであつた。そして、土曜日には定期試験や建設工事などの決まつた作業が予定されることはないが、このようにやむなく一般職員の配置が一名となつた場合にテレビ中継装置に障害が発生したときは、当日出勤した管理者が一般職員の代替を務め、その二名が協働して修理作業に当たるという方法でこれに対処してきた。

以上の事実が認められ、これによれば、第一整備課の業務を運営するについては最低二名の人員を配置することが必要であると認めるのが相当である。なるほど、日曜日や夜間などには第一整備課の職員の配置がなくなり、その間に発生したテレビ中継装置の障害に対してはテレビジヨン課において応急措置を施すものとされてはいるが、第一整備課が二四時間勤務体制をとらなくなつたのは、そこまでの必要性はないとの判断によるものであるにすぎず、そうであるからといつて、障害が発生した場合に第一整備課が迅速に修理業務を行う必要性がないというものでないことはもちろんであるから、第一整備課に職員を配置すべき日時においては、障害の発生に備えて、それに直ちに対処し得るだけの必要人員を配置すべきである。したがつて、この二名の最低必要人員の配置を欠くことは、それ自体、事業の正常な運営を妨げるものといわなければならない。

四  被告公社が置かれた特殊な状況

原本の存在と成立に争いがない乙第四号証の一の一ないし四、同号証の二、同号証の三の一ないし八、同号証の四の一ないし四、同号証の五の一ないし三、同号証の六の一ないし一五、同号証の七の一ないし三及び乙第五七ないし第五九号証、成立に争いがない乙第五号証、第一五号証の一、二及び第四一号証の一、二、証人野口理彦の証言により成立が認められる乙第二〇号証の一ないし四並びに証人野口理彦、相波清及び吉田彰男の各証言によれば、次の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

1  昭和五三年当時、成田空港の開港に反対するいわゆる過激派集団は、三月三〇日の開港を目前にした同月二六日、同空港管制塔内に侵入してその諸施設を破壊し、開港の大幅な延期を余儀なくさせたのをはじめとして、同月三一日には成田地区で市外通話用電話ケーブルを三か所で切断し、開港日が改めて五月二〇日に認定されると、同月一三日には同空港周辺にある航空無線誘導施設二か所を襲撃し、開港日当日の同月二〇日には所沢市などで航空管制回線の同軸ケーブルや一般電話回線を三か所で切断するなどのいわゆるゲリラ的破壊活動を行つた。更に、過激派集団は、六月に入ると百日闘争を宣言して、同月二三日に筑波山の航空無線中継所を襲撃し、九月一七日の百日闘争最終日が近づくと、八月三〇日には箱根航空路監視レーダー局を襲撃し、九月二日から三日にかけては大阪、神戸、岡山の各警察施設に時限発火装置を仕掛けるとともに、鳥取空港の空港専用線を含む電話ケーブルを切断し、同月七日には千葉、埼玉両県内四か所で電話ケーブルを切断し、被告公社米本無線中継所に侵入してその施設を破壊するなど、各地で無差別的破壊活動を相次いで行い、その様相を激化させていた。

2  被告公社東京無線通信部は、このような過激派集団による被告公社の電気通信設備等に対する無差別的破壊活動という事態に対処するため、八月二八日、千葉県内在住の管理者に対して成田無線中継所に異常事態が発生したときは直ちに同中継所に駆け付けて復旧の任に当たるべき旨を義務づけた駆け付け応援体制を含む諸施策を策定して、電気通信サービスの確保に努めることとし、更に、九月一一日には、同月一二日から一八日朝までの間の防備対策を特に強化するため、管下の全中継所に対し特別保守体制をとるよう指示した。これを受けて、東京統制無線中継所においても、右の期間中、管理者による夜間・休日の勤務、自宅待機等により、情報連絡体制、保全サービス体制及び局舎警備体制を整備強化する特別保守体制をとることとなり、同月一一日夕刻、その旨が管理者全員に伝達された。

3  吉田巡回保全長は、右の駆け付け応援体制の要員に組み込まれ、九月七日に被告公社米本無線中継所が過激派によつて襲撃された際には、同中継所に駆け付けて破壊された施設の復旧作業に当たつた。なお、巡回保全長という役職は、元来、上司からの指示により現場に赴いて復旧作業等を行うのをその職務としており、吉田巡回保全長は、右の駆け付け応援体制が策定される以前においても、五月二〇日に所沢市で同軸ケーブルが切断された際には、電話による指示を受け、朝から新宿の中継所に直接赴いて予備回線の作成に当たつたことがあつた。

4  ところで、三月二六日の成田空港管制塔襲撃事件に関連して多数の者が逮捕されたが、その中には被告公社職員が五名も含まれていたため、公法人としての被告公社に対し、その服務管理や服務規律の在り方について国会やマスコミから厳しい指弾が加えられた。そこで、被告公社副総裁は、五月九日、各電気通信局長に対し、このような不祥事の再発防止と公社としての社会的責任等の観点から、職員の日常管理に一層留意し、服務規律の厳正化を図るよう指示し、関東電気通信局は、同月一二日、管内一般長にあてて同様の指示を行つた。これを受けた東京統制無線中継所においては、次第に過激派集団の活動が激化してゆく中で、九月五日、野口次長から全管理者に対し、右の副総裁の指示を周知徹底し、具体的には、職員に対し違法行為に参加しないよう指導すること、年休は就業規則等に定められたルールに基づいて申請させること、業務上の支障がある場合には時季変更権を行使し、やむを得ない場合を除いて安易な勤務割の変更はしないことを指示した。

五  時季変更権行使の適法性

以上の事実関係に基づき、原告村田からの年休の時季指定に対して相波課長がした時季変更権行使の適法性について判断する。

1  原告村田の年休の時季として指定した九月一六日は土曜日であり、当日の第一整備課の勤務予定者は一般職員が原告村田と大川係長の二名、管理者が吉田巡回保全長であつたことは当事者間に争いがない。したがつて、当日に原告村田が年休を取得して欠務すると、一般職員の配置は大川係長一名となる。ところで、第一整備課においては、その事業の正常な運営のためには最低二名の配置を要するものであるが、従来、一般職員の配置がやむなく一名となつた場合には、勤務割の変更による代替勤務者の確保という方法によるのでなく、当日出勤した管理者が欠務した一般職員の代替を務めることによつて、この最低配置人員を満たしてきた。

ところが、九月一六日については、管理者である吉田巡回保全長は東京無線通信部の駆け付け応援体制に組み込まれていて、成田無線中継所やその他の周辺関連施設に異常事態が発生したときには直ちに現場へ駆け付けなければならず、第一整備課の業務に携わることができなくなるという特別の事情があつた。そして、前記四に認定したような当時の過激派集団の活動状況を考慮すれば、翌一七日に百日闘争最終日を控えて、そのような異常事態が発生する蓋然性は極めて高いものであつたということができる。したがつて、九月一六日には、従来のように、管理者である吉田巡回保全長が原告村田の欠務を補充してその代替を務めることを予定することはできなかつたものといわなければならない。

そうすると、第一整備課においては、当日は一般職員二名の配置を確保することが必要であつたのであり、原告村田の年休取得を認めるためには、他の週休予定の一般職員の勤務割を変更して代替勤務者を確保しなければならなかつたこととなる。

2  被告は、この点につき、第一整備課では従来そのような勤務割の変更による代替勤務者の確保という方法が採られたことはなかつたと主張する。なるほど、従前の管理者による代替という方法は、それが可能な場合には、年休請求者の年休の取得を妨げず、かつ、他の一般職員にも何らの影響を及ぼさないから、服務管理上も相応の合理性をもつものということができる。しかし、そうであるからといつて、管理者による代替が不可能な場合についても、従前に例がないというだけの理由で勤務割の変更という方法を考慮する必要がないかは、おのずから別の問題である。

もとより、勤務割の変更は使用者の権限に属する事項であつて使用者の義務ではないが、年休の取得を認めると最低配置人員を欠くに至る場合には、年休制度を実効性のあるものとするため、使用者としては、勤務割の変更により代替勤務者を確保するよう努力すべきであり、そのような努力をしても代替勤務者を確保することができなかつたときに、はじめて時季変更権の行使をすることができるものと解するのが相当である。このように解しないと、最低必要人員しか配置されない日に勤務割の指定を受けた者は、年休を取得することができなくなつてしまうからである。

3  ところで、勤務割の変更により代替勤務者を確保することは、代替勤務者にとつては、本来勤務を要しない日に予定を変更して勤務を命じられることを意味するのであるから、使用者が無条件に代替勤務を命じ得るものでないことは当然である。成立に争いがない乙第七号証の一、二及び第五六号証の一、二によれば、被告公社の就業規則二六条は、職員の勤務割は業務上必要があるときは変更されることがあるとし、右の勤務割の変更は原則として前前日の勤務終了時までに通知されると規定していること、また、被告公社と全国電気通信労働組合との団体交渉において、勤務割を勤務の前日又は当日に変更する場合は本人の同意を必要とする旨が合意されていること、更に、就業規則三一条は、週休日は業務上やむを得ない理由があるときは他の日に変更されることがあるし、右の週休日の変更は原則として前前日の勤務終了時までに通知されると規定していることが認められる。

このように、就業規則上、勤務割の変更又は週休日の変更は業務上の必要又はやむを得ない業務上の理由があるときに命じ得るものであるが、これは被告公社が一方的に変更を命じる場合の要件であつて、変更を命じられる本人の同意があれば、右のような要件の存在は不要であると解することができる。したがつて、使用者が代替勤務者を確保するよう努力するに当たつては、まず、代替勤務をする能力や資格を有し、かつ、代替勤務に同意をする者がいるか否かを検討し、そのような者がいない場合には、次いで年休請求者及び代替勤務候補者双方の事情を十分斟酌した上、代替勤務を命じるのか又は年休の時季変更権を行使すべきかを検討しなければならないものと解するのが相当である。

ところが、相波課長は、原告村田の年休の時季指定に対し、最低配置人員に欠員が生じることを理由に時季変更権を行使したのであるが、その際に代替勤務者を確保することができるか否かについて何ら検討していないのである。したがつて、同課長のした時季変更権の行使は、その要件を欠き、無効といわなければならない。

4  もつとも、前記四のとおり、当時、被告公社の服務管理や服務規律の在り方については各方面から厳しい批判があり、また、百日闘争の最終日に向けて過激派集団の破壊活動が激化していたことから、被告公社は一丸となつて安易な勤務割の変更をしないなどの服務管理、服務規律の厳正化を図ろうとしていたのであり、被告公社の公法人としての性格を考慮すれば、被告会社がそのような姿勢を示したことは十分理解することができる。しかし、右のように服務管理、服務規律の厳正化の心要性があるからといつて、労働者が年休の権利を適法、適式に行使してきた場合にその権利を侵害することが許されないことも当然であつて、たとえ労働者が年休の利用により成田空港の開港に反対する過激派集団に同調して違法行為に及ぶことが懸念されたとしても、それを防止することは、労働基準法三九条の定める「事業の正常な運営を妨げる場合」という時季変更権行使の要件とはもはや無関係の事柄であるといわざるを得ない。年休請求者に年休を取得させるために勤務割を変更すること自体は、決して安易な勤務割の変更というべきではなく、服務管理の厳正化にもとるものではない。

第三原告大沼関係

一  年休の時季指定と時季変更権の行使

抗弁3(一)のうち、原告大沼が八月二九日に渡辺工事係長に対し九月二日と一七日の両日について年休の時季指定をし、八月三〇日に稲葉課長が同係長からその報告を受けたこと、九月二日が年休として取り扱われたこと、原告大沼が九月七日に稲葉課長に対し同月一七日について再度年休の時季指定をしたこと、これに対し稲葉課長が代替可能者の不存在を理由に時季変更権を行使したことは当事者間に争いがなく、これらの事実に、証人稲葉次夫の証言により成立が認められる乙第二二号証、同証人及び証人石川春男の各証言並びに原告大沼本人尋問の結果を総合すれば、次の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

1  原告大沼は、八月二九日、電力課の渡辺工事係長に対し、口頭で、九月二日と一七日の両日について年休を取得したい旨を申し出て年休の時季指定をした上、同課制御室備付けの輪番服務者用の勤務割表の該当日欄に年休を示す「年」の字を自ら記入した。同課では、年休の時季指定は、正規には課長に対して行うのであるが、職員の勤務関係事務を担当する工事係長を経由して行うこともしばしばあつた。しかし、備付けの勤務割表への年休の表示は、課長又は工事係長が年休の取得を確認したうえで記入するのが本来であり、いわゆる盆暮れなど勤務する職員の数が少なくなつて計画的に年休を取得する必要があるときにはその旨の指示に基づいて職員自らが記入することもあつたが、それ以外には職員が課長の承認なく勝手に記入することは認められていなかつた。

稲葉課長は、翌三〇日、渡辺係長から原告大沼の年休の時季指定があつたことの報告を受け、九月二日については特に業務上の支障もないのでそのまま認めることとし、それに伴つて必要な措置を行うよう渡辺係長に指示したが、同月一七日については、まだ先のことで業務上の支障等の見通しも立たないので一応保留することとした。ところが、九月六日になつて、稲葉課長は、備付けの勤務割表の原告大沼の同月一七日欄に年休の表示がされているのを見付け、まだ保留中でもあつたので、その表示を消しゴムで抹消した。

2  原告大沼は、翌七日、勤務割表の九月一七日の年休の表示が抹消されていることに気付いたので、稲葉課長の席へ行き、改めて口頭で同日について年休の時季指定をした。これに対し、稲葉課長は、同日は日曜日で、日曜勤務は原告大沼と菊池の二名の最低人員しか配置が予定されていなかつたため、原告大沼に対し、勤務割表を示しながら、当日は勤務割変更による代替勤務者が確保できないことを告げ、原告大沼のほうで年休の時季を変更するよう促した。しかし、原告大沼は、変更することができないと答え、稲葉課長が変更できないような用事が何かあるのかと尋ねたのに対しても、年休を取得するのに理由を言う必要はないとしか答えなかつた。

3  原告大沼は、翌八日、稲葉課長の席へ行き、田山秀彦が代替勤務に同意したのでその旨勤務割を変更して原告大沼の年休取得を認めるよう申し入れた。しかし、稲葉課長は、原告大沼がチーフと呼ばれる相当程度の経験年数をもつ職員であるのに対し、田山はまだ経験が浅く、もう一人の勤務予定者である菊池も経験が浅い職員であつたことから、田山と菊池との二人の勤務では障害などが発生した場合に問題がある旨を告げて、この申入れに応じなかつた。そして、原告大沼が、同月一五日から一七日までを三連休としたいとして更に勤務割の変更による年休の取得を主張したので、稲葉課長は、これに対し、勤務割の変更ができる状況ではなく、代替勤務者が確保できないので原告大沼が年休の時季を変更するよう告げて、時季変更権を行使した。

4  その後、原告大沼は、同月一一日、川口忠志が代替勤務に同意しているとして勤務割の変更を求めたが、稲葉課長は、川口は前日が宿明勤務であるからその翌日には日勤はさせられないとして、これに応じなかつた。更に、原告大沼は、翌一二日には、石川春男の意向を打診した上で、年休の取得に代えて、同人の同月一六日夕から一七日朝にかけての宿直宿明勤務を原告大沼が替わつて務めるように勤務割を変更することを申し入れた。これに対し、稲葉課長は、原告大沼のそれまでの三連休の希望が変わつたこと、そのような勤務割の変更のためには事情を告げて石川の同意を得る必要があること、仮にそのように変更したとすると二人の勤務割が非常に変則的になることなどから、そのような勤務割の変更が必要なだけのやむを得ない事情があるのかを尋ねたが、原告大沼がなぜ理由が必要なのかと言うだけで一向に理由を明らかにしなかつたので、既に指定されたとおり出勤するよう告げて、この申入れにも応じなかつた。

二  原告大沼の担務

抗弁3(二)の(1)アのうち電力課が東京統制無線中継所内の電気通信施設に電力を供給するとともに同中継所内の冷暖房を含む空気調整設備の運転と保守とを分掌していること、同イの事実及び同(二)の(2)の事実は当事者間に争いがなく、これらの事実に、前掲乙第二号証、第三号証の一、二、第二二号証及び第四二号証、成立に争いがない乙第二三号証及び第二八号証の各一、二、証人稲葉次夫の証言により成立が認められる乙第二九号証並びに証人野口理彦及び稲葉次夫の各証言を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

1  第二テレビジヨン部電力課は、東京統制無線中継所内のすべての電気通信施設に電力を供給するとともに、コンピユータを始めとする精密電子機器の正常な作動に必要な冷暖房を含む空気調整を行うため、電力供給関係設備及び空気調整設備の運転と、点検、試験、修理等の保守の業務を分掌している。

2  電力課の職員は、課長一名、電力係長一名、同係員一名、工事係長一名、工事主任二名及び一般の課員一〇名の計一六名である。

課長を除いた職員の勤務形態は、一般の課員一〇名は、二名を一組として、日勤勤務、宿直宿明勤務と週休とを組み合わせた勤務形態を曜日にかかわりなく五日単位で循環的に繰り返す五輪番服務により二四時間勤務体制をとつており、個々の職員についての具体的な勤務割は、一か月ごとに作成される勤務割表によつて定められる。その他の職員は、平日は午前八時三〇分から午後五時一〇分までの日勤勤務、土曜日は午前八時三〇分から一二時までの半日勤務を行い、日曜日と祝日は休日となつている。

3  原告大沼は、電力課の一般の課員として五輪番服務を行う者の一人であり、その勤務形態に従つて、電力供給関係設備、空気調整設備等の運転制御及び運転状況の監視、これら設備の定期点検、定期試験、障害修理等の保守作業並びにその保全工事、建設工事等の作業に従事している。

三  電力課の最低配置人員

前掲乙第二二号証、第二三号証の一、二、第二八号証の一、二及び第二九号証、成立に争いがない乙第二四ないし第二七号証、第三一号証の一ないし六及び第五〇ないし第五五号証、証人稲葉次夫の証言により成立が認められる乙第三〇号証並びに同証人及び証人石川春男の各証言によれば、次の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

1  電力課の分掌する主たる業務は、電力供給関係設備及び空気調整設備の正常な運転の確保にある。そのため、右各設備の運転状態を表示する諸計器類を制御室内の運転監視装置(監視台、空調制御盤)に集中してその運転状態を常時監視し、これらの設備に障害などの異常が生じた場合には直ちにその除去及び修理のための措置を講じて、電力供給の中断、コンピユータの誤作動等の事態を生じさせないようにしている。昭和五二年度には、これらの設備について、テレビ中継サービスに影響を与え、又はそのおそれがあつた障害が七件発生した。

それとともに、このような異常の発生を未然に防止するため、電力供給関係設備については、毎日、各設置場所に赴いて作動状態を確認し(一日五回)、設備主要部の電圧、電流を測定するなどの点検を行うほか、各設備について、毎年、毎季、毎月、毎週などの周期によつて点検及び試験項目を定め、保守月間計画表を作成して具体的な実施時期を定めた上、これに基づいてその点検、試験を定期的に実施している。また、空気調整設備についても、毎日、各設置場所に赴いて圧力を測定し、各部屋に赴いて室温や湿度を測定する(一日二回)などの点検を行つている。

2  このような業務の運営に当たつては、まず、少なくとも一人が制御室にいて、運転監視装置により常時監視を続けなければならない。そして、電力課所管の設備は、電力供給関係が四室に分散して設置され、空気調整関係も地下二階から地上四階までの各階に設置されているので、それらの設備の点検、試験、修理等は、制御室内で監視を続ける者が同時に行うことはできず、それ以外の者が行うこととなつている。また、電力課の業務には六六〇〇ボルトという高圧を含む電力を取り扱うという危険性があるため、生命の安全の面からも、電力供給関係設備の操作は二人以上で行うことが必要であると考えられている。

3  電力課では、前記二のような二四時間勤務体制をとつているため、土曜日の午後、休日や夜間、早朝には五輪番服務を行う一般の課員二名のみが勤務を行うこととなる。そこで、このような場合にやむを得ない事情等により二名の配置を欠くようなときには、他の職員の同意を得た上、その勤務割を変更して代替勤務者を確保するという方法により、その欠務を補充してきた。

以上の事実が認められ、これによれば、電力課の業務を運営するについては最低二名の人員を配置することが必要であると認めるのが相当である。したがつて、この二名の最低配置人員を欠くことは、それ自体、事業の正常な運営を妨げるものといわなければならない。

四  勤務割変更による代替勤務者の確保

抗弁3(三)の(1)イのうち電力課の九月一七日の日勤勤務予定者が原告大沼及び菊池の二名であつたことは当事者間に争いがなく、この事実に、前掲乙第二二号証、第二三号証の一、二、第二四ないし第二七号証及び第五〇ないし第五五号証、成立に争いがない甲第三四号証、乙第六一号証、第六三号証及び第六五号証、原本の存在と成立に争いがない甲第一九号証、乙第六二号証及び第六四号証、証人稲葉次夫の証言並びに原告大沼本人尋問の結果を総合すれば、次の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

1  原告大沼が年休の時季として指定した九月一七日は日曜日で、当日の電力課の日勤勤務予定者は原告大沼と菊池の二名であり、この二名により、前記三の毎日点検作業のほか、毎週点検として一〇〇キロボルトアンペア・インバータ及び二一ボルト整流器の点検清掃作業を行うことが計画されていた。したがつて、原告大沼が年休を取得して欠務すると配置人員が菊池一名となつて業務に支障が生じるため、原告大沼の年休をそのまま認めるためには、従前の取扱いに従つて、勤務割の変更によりその代替勤務者を確保しなければならなかつた。そこで、稲葉課長は、八月三〇日に渡辺係長から原告大沼が年休の時季指定をした旨の報告を受けた後、代替勤務が可能と思われる職員に対し、適宜その意向を尋ねてみることとした。

2  電力課では、前記二のような変則的な勤務形態をとつているため、職員の健康管理上、五輪番服務者が宿直宿明勤務を終えた翌日は週休となるように勤務割を編成しており、勤務割の変更をする場合にも、変更後の宿直宿明勤務の翌日を週休とするようにしてきた。ただ、職員の訓練参加や出張、レクリエーシヨン行事などがあつてそうした編成ができないときは、やむを得ないので、当人の都合も聴いた上で、例外的に宿直宿明勤務の翌日を日勤勤務とすることもあつた。

また、日曜日や夜間などには五輪番服務者二名のみが配置されることになるので、その際に障害の発生等があつても適切、円滑に業務を遂行することができるように、この二名の組合せについては、そのうちの一名には少なくとも二年程度の電力課業務の経験を有し業務全般にわたつて取り仕切ることができる者を充てることとしており、このような組合せの方法は厳格に守られてきた。

3  電力課の勤務割では、課長を除く一五名の職員の九月一七日の勤務予定は、宿明勤務が二名、日勤勤務が二名、宿直勤務が二名であつたが、他に大学部の試験、訓練、ボイラー講習会に参加する者が各一名、既に年休を取得した者が一名いたので、当日の日勤勤務を代替し得る者は一応残る五名の週休予定者(岩沢豊、川口忠志、田山秀彦、横田重太郎工事主任及び工藤安雄係長)であつた。しかし、右2のような勤務割の方針によれば、その五名のうち川口と田山は宿直宿明勤務を終えた翌日に当たり、また、田山は電力課業務の経験がまだ一年五か月程度と浅く、同様の経験しか有しない菊池と組み合わせることもできなかつた。更に、横田工事主任は、既に八月二六、二七日の土、日曜日及び九月二日の土曜日の各週休を変更して空気調整設備の整備作業を行つていたので、これ以上同人の週休日を変更することは服務指定上困難な状況にあつた。

そこで、稲葉課長は、九月七日に原告大沼から改めて年休の時季指定を受けるまでに、残る岩沢と工藤係長に対しその意向を尋ねたが、この両名からは原告大沼の代替勤務をすることの同意が得られなかつた。

更に、稲葉課長は、前記一の経過にかんがみ、時季変更権を行使した後にも、念のため、横田工事主任と川口に対し代替勤務についての意向を尋ね、また、工藤係長の意向も確認したが、いずれからも同意は得られなかつた。

五  時季変更権行使の適法性

以上の事実関係に基づき、原告大沼からの年休の時季指定に対して稲葉課長がした時季変更権行使の適法性について判断する。

1  原告大沼の年休の時季指定に係る九月一七日については、当日の日勤勤務には最低配置人員である二名しか予定されていなかつたのであるから、年休制度を実効性のあるものとするため、前記第二の五で述べたように、被告公社には、勤務割変更により代替勤務者を確保するよう努力すべき義務があり、そのような努力をしても代替勤務者を確保することができない場合に、はじめて時季変更権の行使をすることができるということになる。

そして、被告公社が負う代替勤務者を確保するよう努力すべき義務の内容について考えると、電力課では、二名の最低人員の配置しか予定していない場合に一人がやむを得ない事情等により勤務を欠くに至るときは、他の職員の同意を得た上、その勤務割を変更して代替勤務に充てることにより欠務を補充してきたこと、また、電力課においては変則的な二四時間勤務体制をとり、具体的な勤務の態様はあらかじめ定められた勤務割により決定されているところ、勤務割を変更することは多かれ少なかれ変更を受ける職員に負担をかけるものであるし、殊に週休日は職員に対し就労の免除を約束したものとして、その変更は安易に行うべきものではないことを考え合わせると、年休制度を実効あらしめるための義務としての勤務割の変更も、年休請求者に他の者の勤務割を一方的に変更してでも年休を取得させるべき特段の事情が認められない限り、その変更を受けるべき者の同意を得た限りにおいて行えば足りるというべきである。

更に、電力課においては、宿直宿明勤務を終えた翌日は週休とすること、また、二名の最低人員を配置するときの一名は少なくとも二年程度の電力課業務の経験を有する者を充てることという勤務割の方針があり、これは服務管理上あるいは業務運営上必要な配慮に基づく合理的な措置ということができるから、原告大沼がこのような方針をまげてまで自らが年休を必要とするだけのやむを得ない理由を進んで明らかにするのでない限り、被告公社の勤務割変更もその方針の範囲内で行えば足りるものといわなければならない(このことは、年休の時季指定につき年休の利用目的を明らかにすることを一般的に要求するものではないが、既に定められた他の者の勤務割を変更してまで年休を取得しようとする場合には、それ相当の理由が存在することを明らかにする必要があるということである。)。

2  そうすると、原告大沼は自らが年休を必要とする理由を何ら明らかにしなかつたのであるから、稲葉課長としては、代替勤務者の確保については右の勤務割の方針の範囲内で代替勤務が可能な者の同意を得る努力をすれば足りるところ、その勤務割変更の対象となるべき岩沢と工藤係長に対し代替勤務の同意が得られるかどうかの打診をしたけれども、同意が得られなかつたというのである。また、横田工事主任については、一応は勤務割変更の対象となり得るものの、既に直前の二週間において土曜日又は日曜日の週休を三回変更して業務に当たらせているのであり、格別の理由を明らかにしない原告大沼の年休の時季指定に対し、更に週休を変更してその代替勤務を行わせるというのでは、特定の職員に必要以上の犠牲を強いる結果になるから、稲葉課長が時季変更権行使前に同人の意向をあらかじめ確認することをしなかつたのにも相当の理由があるし、時季変更権の行使後にではあるが、結局、同人からは代替勤務の同意が得られないことが判明したのである。そして、この三名のほかには、勤務割変更の対象となるべき職員はいなかつたこととなる。

したがつて、原告大沼の年休の時季指定に対し、被告公社は勤務割の変更により代替勤務者を確保するよう努力すべき義務を尽くしたというべきであり、その年休取得を認めれば職員の配置が一名となつて電力課の事業の正常な運営を妨げることになるから、これを理由として稲葉課長が時季変更権を行使したのは適法であるといわなければならない。

3  なお、稲葉課長の証言中には、代替勤務が可能な者にその意向を尋ねるに際して安易な勤務割の変更はしないとの前提で意向を尋ねたとの部分があるが、前記第二の四、五のとおり、当時被告公社はその内外から服務管理、服務規律の厳正化を強く要請されていたのであるから、そのような特殊な状況の下においては、格別の理由も明らかにしない年休の時季指定に対する対応方法として是認できないものではなく、これをもつて、原告大沼に年休を取得させないよう積極的に働き掛けたものということはできない。また、原告大沼は年休の取得に代えて石川の宿直宿明勤務との交替を提案しているが、前記一の経過に照らしてその真意は計りかねるばかりか、たとえ原告大沼が石川の同意を得ていたとしても、そのような勤務割の変更をするか否かは正に使用者が諸般の事情を考慮して決すべき事柄であり、職員相互の合意があるからといつて使用者がそのとおりに勤務割の変更をすべき義務はない。そして、仮に被告公社に原告大沼を成田空港の開港に反対する集会に参加させないという意図が潜在していたとしても、時季変更権行使の要件が客観的に認められる以上、その行使が違法なものとなるわけではない。

第四原告板倉関係

一  年休の時季指定と時季変更権の行使

抗弁4(一)のうち、原告板倉が九月二日に雉岡課長に対し同月一七日について年休の時季指定をしたこと、これに対して雉岡課長が「わかつた」と答えたこと、雉岡課長が同月一一日に時季変更権を行使したことは当事者間に争いがなく、これらの事実に、成立に争いがない乙第三三号証、証人雉岡恵太郎の証言及び原告板倉本人尋問の結果を総合すれば、次の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

1  原告板倉は、九月二日、試験課の雉岡課長の席へ行き、口頭で、同月一七日に年休を取得したい、代替勤務者は課長の方で見付けてほしい旨を申し出て、年休の時季指定をした。これに対し、雉岡課長は、その時季指定に係る日は日曜日で、日勤勤務は原告板倉一名の配置しか予定されておらず、その年休を認めるには代替勤務者を確保して勤務割を変更する必要があつたが、まだ二週間も先のことなのでその間に代替勤務者が見付かると考え、「わかつた」と答えた。

2  雉岡課長は、同月一〇日ころまでの間に、当日に宿明勤務あるいは宿直勤務が予定されていた二名を除き、残りの週休予定の課員一七名全員に対し、随時、原告板倉の代替勤務についての意向を尋ねたが、その全員が都合が悪いということで、その同意を得ることができなかつた。そこで、雉岡課長は、同月一一日、機械室で勤務中の原告板倉に対し、代替勤務者が見付からないので年休の時季を他の日に変更するよう告げて、時季変更権を行使した。この間、原告板倉は、九月一七日に年休を必要とする理由を特に明らかにすることはなかつた。

二  原告板倉の担務

抗弁4(二)のうち(3)イの事実及び(4)の事実は当事者間に争いがなく、これらの事実に、前掲乙第三三号証、成立に争いがない乙第九号証及び第三七号証、原本の存在と成立に争いがない乙第一〇号証、証人石川敬一郎の証言により成立が認められる乙第四七号証、同証人及び証人雉岡恵太郎の各証言並びに原告板倉本人尋問の結果を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

1  大手町統制電話中継所は、抗弁4(二)の(1)、(2)の記載のとおり、関東地方を管轄する総括局として、管内の市外通話を中継、伝送する市外電話交換網を保守し、また、データ通信のデジタル・データ網の全国唯一のマスター局としてその保守に当たるなどの業務を所掌しており、その内部機構は所長の下に試験課、整備課、庶務課の三課から成り、その職員数は五三名である。

2  試験課は、大手町統制電話中継所に収容している市外電話回線等について、常時監視し、障害を未然に防止するため定期試験を行い、障害が発生した場合には関係電話中継所と連絡を取りながら障害区間を探索し、予備伝送路に切り替えるなどの応急措置を施した上、整備課又は当該中継所へ修理の手配をし、修理状況を確認試験するなど、その保全統制業務を分掌している。

3  試験課の職員は、課長一名、第一統制係長一名、同係員一名、第二統制係長一名、同係員一名、試験係長一名、同係員一名、工事係長一名、同係工事主任三名、同係員一〇名の計二一名である。

課長を除いた職員の勤務形態は、第一、第二統制係及び試験係の六名は、デスク要員といわれ、平日は午前八時三〇分から午後五時一〇分まで、土曜日は午前八時三〇分から一二時までという固定した日勤勤務のみを行い、工事係長、工事主任三名及び工事係員のうち四名は、一週のうち五日間は午前八時三〇分から午後五時一〇分まで、残りの一日は三時間半の勤務という準固定日勤勤務を行い、残りの工事係員六名は、日勤勤務、宿直宿明勤務と週休とを組み合わせた勤務形態を曜日にかかわりなく六日単位で循環的に繰り返す六輪番服務により二四時間勤務体制をとつている。そして、一〇名の工事係員の各々は、六輪番服務を一二週行うと次の八週は準固定日勤勤務を行い、これを順次交代により循環して行うこととなつている。個々の職員についての具体的な勤務割は、一か月ごとに作成される勤務割表によつて定められる。

4  原告板倉は、工事係員として、市外電話回線等の監視、試験、障害修理等の現場作業に従事しており、九月当時は六輪番服務を行つていた。

三  試験課の最低配置人員

前掲乙第三三号証、第三七号証及び第四七号証、原本の存在と成立に争いがない甲第三二号証の一ないし四、証人石川敬一郎及び雉岡恵太郎の各証言並びに原告板倉本人尋問の結果によれば、次の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

1  試験課の分掌する業務のうちには、市外電話回線等の状態を監視し、障害が発生した場合には直ちに原因を探索し修理の手配をする業務がある。大手町統制電話中継所内に原因がある障害が発生した場合に、その修理を行うのは整備課の分掌業務とされているが、実際には、試験課と整備課とが共同して修理関係業務を行つている。

2  試験課と整備課は共に輪番服務方式による二四時間勤務体制をとつているが、宿直宿明勤務や日曜日、祝日の日勤勤務には両課から各一名のみが配置され、この二名が共同して両課の業務を行つている。この場合に障害が発生したときは、一名が原因の探索や修理作業に当たり、他の一名が統制台に就いて関係中継所との情報連絡や修理上の助言、協力を行うこととなる。もつとも、規模の大きな異常障害が発生した場合には、応急措置を施した上で管理者の駆け付けを求め、更には東京統制電話中継所の保全主幹に応援を求めることもある。

大手町統制電話中継所で修理を要した障害件数は、昭和五二年度一年間において、市外電話回線が一三一八件、専用線が九四四回線あり、合わせると一日平均六件強であつた。また、異常障害も、同年度中に二五件発生した。

3  試験課では、右のような最低一名の配置時にそれを欠くようなときには、工事係員の中から、勤務割上可能で、かつ、本人の同意を得た職員を、勤務割変更により代替勤務者に充ててきており、この一名の配置を欠いたことはなかつた。ただ、例外としては、突発的な事情により代替勤務者を確保することができなかつたことが過去二例あり、昭和五一年三月に原告板倉が交通ストにより出勤できなくなつたときは雉岡課長がその宿直宿明勤務を代替し、昭和五二年三月に原告板倉が急病により出勤できなくなつたときは整備課長がその宿直宿明勤務を代替した。また、デスク要員が代替勤務を行つたことは過去一例あり、昭和五二年五月に業務上の都合により宿直宿明勤務を行うことができなくなつた雨宮をデスク要員の一人である倉賀野が代替した。

以上の事実が認められ、これによれば、試験課の業務を運営するについては最低一名の人員を配置することが必要であると認めるのが相当である。したがつて、この一名の配置を欠くことは、それ自体、事業の正常な運営を妨げるものといわなければならない。

四  時季変更権行使の適法性

以上の事実関係に基づき、原告板倉からの年休の時季指定に対して雉岡課長がした時季変更権行使の適法性について判断する。

1  原告板倉が年休の時季として指定した九月一七日は日曜日であり、当日の試験課の日勤勤務予定者が原告板倉一名のみであつたことは当事者間に争いがない。したがつて、当日に原告板倉が年休を取得して欠務するときは最低配置人員を欠くこととなるから、被告公社には、前記第二の五で述べたように、勤務割を変更して代替勤務者を確保するよう努力すべき義務があつたものといわなければならない。もつとも、試験課における勤務体制も東京統制無線中継所第二テレビジヨン部電力課と同様の変則的な二四時間勤務体制であり、また、代替勤務のための勤務割の変更については本人の同意を得て行つてきたことも右電力課と同様であるから、前記第三の五で述べたように、この勤務割の変更も、年休請求者に他の者の勤務割を一方的に変更してでも年休を取得させるべき特段の事情が認められない限り、その変更を受けるべき者の同意を得た限りにおいて行えば足りるというべきである。

2  ところが、雉岡課長は、当日に宿明勤務あるいは宿直勤務が予定されている二名の職員を除き、従前には例外的にしか輪番服務者の代替をしなかつたデスク要員をも含めて、残る課員一七名全員に代替勤務の意向を尋ねたにもかかわらず、そのいずれからも同意が得られなかつたというのである。そして、右のような特段の事情が存在することは証拠上認められない。

したがつて、原告板倉の年休の時季指定に対し、被告公社は勤務割の変更により代替勤務者を確保するよう努力すべき義務を尽くしたというべきであり、その年休取得を認めれば試験課が無配置となつて事業の正常な運営を妨げることになるから、これを理由として雉岡課長が時季変更権を行使したのは適法であるといわなければならない。

3  原告板倉は、従来、試験課においては時季変更権が行使されたことがなく、職員が年休の時季指定をして課長の確認を得ればそれで年休が取得できるという慣行が成立していたと主張する。そして、成立に争いがない乙第四八号証及び証人雉岡恵太郎の証言によれば、雉岡が試験課長であつた昭和五一年二月から昭和五四年二月までの間に時季変更権を行使したのは本件の一回のみであつたことが認められる。

しかし、試験課において職員が無配置となることはそれ自体事業の正常な運営を妨げるものであるから、勤務割の変更による代替勤務者の確保ができなかつた場合にも時季変更権を行使することができないいわれはない。証人雉岡恵太郎の証言によれば、本件以外の場合は、いずれもその者の同意を得て代替勤務者を確保することができたものであることが認められ、本件においても、雉岡課長は代替勤務者が得られる見込みの下に「わかつた」と応答しているのである。原告板倉の主張は結果論にすぎず、そのような慣行の存在は認めようもない。

4  原告板倉は、また、雉岡課長の時季変更権の行使は、変更権を行使し得る期間を著しく逸脱したものであると主張する。

たしかに、時季変更権の行使は事業の正常な運営を妨げる事情の存在が判明してから合理的期間内にしなければならず、不当に遅延した時季変更権の行使は許されないものと解するのが相当である。しかし、原告板倉が年休の時季指定をした九月二日は土曜日であり、雉岡課長が時季変更権を行使した同月一一日は月曜日であつて、前掲乙第三三号証によれば、その間、土、日曜日はほとんどの職員が週休であるほか、輪番服務者には交互に宿直宿明勤務と平日週休があり、また、訓練やレクリエーシヨン行事に参加した者も何人かいるなどの事実が認められるから、計一七名の職員に対して代替勤務についての意向を尋ねるためにはある程度の日数を要するのはやむを得ない。そして、時季変更権の行使から時季指定に係る同月一七日までには、期間的にまだ十分な余裕があつたものということができるから、雉岡課長の時季変更権の行使が不当に遅延したものということはできない。

5  なお、仮に被告公社に原告板倉を成田空港の開港に反対する集会に参加させないという意図が潜在していたとしても、時季変更権行使の要件が客観的に認められる以上、その行使が違法なものとなるわけではない。

第五結論

一  原告村田について

前記第二で説示したとおり、被告公社が原告村田に対してした時季変更権の行使はその要件を欠き、無効である。したがつて、同原告が昭和五三年度に有していた年休の日数の範囲内で九月一六日についてした年休の時季指定によつて、同日につき年休が成立し、同日における就労義務は消滅したものといわなければならない。そうすると、被告公社が同原告に対し同日に出勤しなかつたことを無断欠勤であるとして行つた本件懲戒処分は、その前提を欠き違法、無効というべきである。また、被告公社が右欠勤分として同原告の賃金から金二四二四円を控除した本件賃金カツトも違法であるから、被告公社は、同原告に対し、右未払賃金二四二四円を支払うべき義務を負う。そして、労働基準法一一四条に基づき、被告公社に対し、これと同額の附加金を同原告に支払うべきことを命じるのが相当である。

よつて、被告に対し、本件懲戒処分の無効確認並びに未払賃金二四二四円、これと同額の附加金及び右未払賃金に対する支払期日後の昭和五三年一二月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告村田の請求は理由がある。

次に、前記認定の事実関係からすれば、被告公社には前記のように違法無効な懲戒処分をするにつき少なくとも過失があつたということができるから、被告公社は、この違法行為により原告村田が被つた損害を賠償すべき義務がある。そして、本件における諸般の事情を総合すれば、本件懲戒処分によつて同原告が受けたであろう精神的苦痛は、本件訴訟において本件懲戒処分の違法、無効が確認されることによつて慰謝され得る程度のものと認められ、同原告がそれ以上の精神的苦痛を受けたとの事情を認めるには足りないが、弁護士費用については、金一〇万円をもつて被告公社の違法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

よつて、原告村田の被告に対する損害賠償請求は、金一〇万円及びこれに対する不法行為後の日である昭和六〇年二月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は失当である。

二  原告大沼及び原告板倉について

前記第三及び第四で説示したとおり、被告公社が原告大沼及び原告板倉に対してした時季変更権の行使はいずれも適法であるから、右原告らがした各年休の時季指定はその効果を生ぜず、右原告らがその時季指定に係る日に出勤しなかつたことは無断欠勤に該当するものといわなければならない。したがつて、この無断欠勤は就業規則五条一項に違反するものであつて同規則五九条一八号の懲戒事由に該当するから(これらの規定の存在については、当事者間に争いがない。)、これを理由に被告公社が公社法三三条に基づいてした本件懲戒処分は、事案にかんがみ裁量の範囲内にあるものとして適法、有効であり、また、無断欠勤を理由とした本件賃金カツトも適法、有効である。そして、本件懲戒処分が違法であることを前提とする不法行為の主張も失当である。

よつて、右原告らの被告に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。

三  むすび

以上のとおり、原告村田の本件請求は、一部理由があるからその限度で認容し、その余は理由がないから棄却し、原告大沼及び板倉の本件各請求は、いずれも理由がないから全部棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用し、仮執行の宣言は必要がないものと認めて付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判官 今井功 片山良廣 藤山雅行)

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